『結婚できない男』脚本家から学ぶ脚本術はビジネス書としても良書だった。
映画やドラマの構造に興味があり最近脚本について記された本を色々と読んでいるので、印象に残った部分を忘備録として記す。
脚本は大きく分けて二つの段階がある。
①「登場人物がいてストーリーらしきものがあって、決められた枚数の中で一定の内容が描かれ、それを読めば何が書いてあるか理解できる」事が第一段階
②『読む人に「面白い」
と思わせ、引き込み、感動させ、共感させる作品を書く』事が第二段階
①については既にたくさんの本が出版されているため、②についての具体的な方法を記している点で
この本は巷に溢れた脚本術と異なっている。
・一にも二にもインプット!!
→アウトプットの前にまずはインプット。
「P/PCバランス」(スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』から引用)を大切にすること。
Pは成果(Production)、PCは目標達成能力(Production Capability)
作品がPで、脚本を書く能力がPCとなる。野菜で例えると作物がP
で畑がPC。
いい作品を書くためには作品(P)をどうするかよりも脳(PC)をどうするかが大切。脚本の場合は他の分野よりもPCが疎かにされがちのため、ここを意識してインプットしていく。
また、このPCはすぐに効果が上がるものではなく、最低三年ほど時間がかかる。一年だと短すぎるし、10年だと皆辞めてしまうから。。。
完訳7つの習慣普及版 人格主義の回復 [ スティーブン・R・コヴィー ]
・名作映画100本ノック
→「ローマの休日」「ゴッドファーザー」「用心棒」など古今東西の名作をただ見るのではなく「分析」する。
「面白い」という感覚的なものを「面白いのは何故か」という論理に置き換えることで、テクニックをインプットする。
例として挙げられているのがヒッチコックの名作『見知らぬ乗客』の1シーン。
主人公のテニス選手がある男に付きまとわれ、試合中他の観客が左右に顔を振ってボールを追うのに対して、その男はじっと主人公を見つめる。このゾッとするシーンが何故ゾッとするのか「分析」する。
男だけがじっと見つめていても怖くなく、周囲の観客の中にいるからゾッとする。
結論として、
「何もないところにAを置いてもインパクトはなく、Bばかりの中にAを置くとAの特徴が際立つ」
という公式を見つける。
このような公式を自分で見つけパターン化していく事で、面白い作品を書ける状態に近づいていく。
・逆バコから構造分析をする
「ハコ書き(シーンごとに場所・登場人物・出来事などを簡潔に書いたもの)」の反対をやる。
注意点:
①始めて見るときにはやらない。自分がどこに感動して、どこを面白いと思ったのか感想を持つため。
②横長の用紙に、一覧出来るように作る。
こうして出来上がった構成から、主人公の登場タイミングや、ストーリーの大きな転換点、起承転結に分けたり、三幕構成や時間の流れを意識して考える。
(※この構成とは別に、登場人物の相関図を書いてもいい)
→「ストーリーを3行でまとめろ」
語られる物語の本質を把握しまとめることは一見簡単そうで難しい。
上記で書かれた作業を繰り返すことでストーリーの「型」を身につけられる。
※映画が何を描こうとしているかという抽象的なテーマと、具体的なストーリーは異なるため注意が必要。
『E.T.』では
「少年が宇宙人との間に素晴らしい友情を育み、成長する」
は抽象的なテーマで、
「主人公が地球に取り残された宇宙人と出会い仲良くなるが、彼が宇宙に帰りたがっているのを知り、送り返してやる話」が具体的。
・シャレード
「言葉に頼らず、何かに託して表現すること」=「説明ではなく映像で表現すること」
『ローマの休日』でアン王女がパーティーの場で、スカートの中片方の靴を脱ぎ、足を掻いているという描写。
セリフで退屈と言わせずに映像で心理を表現するテクニック。
・ストーリーに必要なもの
「主人公の一貫したエモーションが新しい状況や展開を生み出していくこと」が必要。
→これで思い出したのがドゥニ・ヴィルヌーブ監督作『プリズナーズ』。娘を何者かに誘拐された主人公が娘を助けたいという「エモーション」を基に一線を踏み越えていくサスペンスです。まさにこの「エモーション」こそが観客を引きつけるモチベーションになっている作品です。
プリズナーズ【動画配信】
・ストーリーの書き方
起承転結や三幕構成を意識して書くのではなく、6代要素に分けて考える。
①「登場人物」が②「ある状況におかれることでストーリーが始まり」③「ストーリーが展開しながら」④「盛り上がっていき」⑤「クライマックス」を経て⑥「結末に至る」
ものだと理解し、この六要素がちゃんと配置され、ストーリーがその要素を満たしているかを考えながら作っていく。
・ストーリーはデジタル、人間はアナログ
「主人公が復讐を目指す」という一貫性のあるデジタルなストーリーに対して、愛する人が現れたり、犯人が悪人でなかったりすると主人公のアナログな気持ちは揺らぐ。このデジタルとアナログのギャップこそがドラマ。
→これが一番印象的でした。尾崎さん自身書かれているように他の脚本術の本には書かれていないと思いますが、手法としては古典的で多くの作品に取り入れられています。『スターウォーズ』におけるルークスカイウォーカーの父、ダース・ベイダーに対する気持ちもまさにこの手法を用いたものではないでしょうか。ストーリーがデジタルに進む中、父としての愛情と、悪の皇帝としてのダース・ベイダーの間で揺れ動くルークの心情こそが観客を引きつける鍵となってますよね。
・初心者が避けたほうがいいジャンル
群像劇、スポーツもの、取材や勉強がすごく必要なもの、ミステリー、ファンタジー、アクション、SF、時間や空間を限定したもの
・脚本におけるWHATとHOW
料理では素材がWHATで調理がHOWと分かりやすいが、脚本だと混乱しがちなため意識的に区別すると良い。
「こんなことを書きたい、訴えたい」はWHATで
「それをどう描くか」がHOW
作品の面白さはHOWに依る部分が大きい。
映画を分析する際にも
「作品のテーマ(WHAT)は素晴らしいが、それをこんなHOWのテクニックで形にしている」と意識する。
感想
脚本のHowto本としてだけじゃなく、映画やドラマの構造がどのような意図で作られているのかが分かる良書。
WHATではなくHOWの重要性を例に挙げるまでもなく、ビジネス書としても参考になる部分は多い。自分本位ではなく観客(顧客)を意識してどう取り組めるかが大切なんでしょうね。